不同沈下:不動産鑑定士嶋内雅人のブログ
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今回は、裁判と不動産価格の話です。
◎事件の概要
Xは、Yから1968(昭和43)年12月に土地を購入しました。
1973(昭和48)年にその土地上に住宅を建築したところ、20cm~30cmの不同沈下が生じて、建物が傾きました。
そこでXは基礎の追加工事の費用22万7,600円と、土地価格の下落分の1,332万7,000円のうち986万円を、Yに対して請求しました。
しかし、Yは一切の過失はないとして争いになりました。
(神戸地判昭58.12.6)
◎判決
追加工事の22万7,600円の支払が命じられました。しかし、土地価格の下落分は、請求が認められませんでした。
◎解説
この土地のあった地区は、大規模造成地の盛土部分でした。
地盤が沈下し、建物が傾くだけではなく、道路も波打つ状態でした。
このため、建築当初から建物の基礎の堅固にするための補強材料が、Yより提供されていました。
にもかかわらず、基礎に亀裂が入り、擁壁にヒビが入るというトラブルが発生しました。
さらに、水道管からの漏水、ガス管のズレ等の事故も発生しました。
Xは、「そもそもこの土地は本来地下水の多い地域であるので、Yには造成地選択上の過失等がある」と主張しました。
裁判所は、「最近の土木工学技術を駆使すれば、盛土の滑動を防止することは必ずしも不可能ではない」としました。したがって、「宅地造成すべきではないとまで断定することは困難である」としました。
そして、転圧工事・排水工事をすべき義務があるにもかかわらず、これを怠った過失があるとして、追加工事について「売主の造成工事における過失行為に起因する損害である」として「費用22万7,600円の支払」を命じました。
しかし、土地価格の下落分については、この土地を転売するという事実やその転売の予見がない以上、評価損相当額については認められないとして退けました。
◎不動産鑑定の見地から
裁判所が工事費用を支払うように命じたのは、納得です。
不動産鑑定でも、土地を利用するのに造成を行う必要がある場合は、そうでない場合の価格から造成費相当額を控除して評価します。
造成したことによりその土地を使用でき、その費用が支払われるのですから、使用することに支障はありません。
しかし、購入者の財産形成が損なわれたのですから、評価損相当額を認めなかったのはいかがなものでしょうか。