秋住事件:不動産鑑定士嶋内雅人のブログ
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今回のテーマは、地盤と安全な土地です。
1990年代のことですが、欠陥住宅が一気に社会問題となったことがありました。
それまでは、「新築なのに家が傾いている」「雨漏りがひどい」等といった欠陥は、ほとんどが建築工事の手抜きや施工ミス等が原因とされました。実際、手抜きをして利益を上げようとする悪質な業者は一部に存在します。また、建築工事は現場で職人の手作業で行われている以上、施工ミスが発生することもあり得ます。
しかし、建物そのものではなく、地盤に原因があって家が傾くケースも少なくありませんでした。
宅地造成地に起こった地盤沈下が最初に社会問題化したのが、「秋住事件」です。
1990年から1993年にかけて、秋田県・秋田銀行・北都銀行などが出資した第三セクター「秋田県木造住宅株式会社」が、千葉県山武郡で建売住宅を分譲しました。
高級感のある秋田杉が建材に使われていることや、当時の秋田県知事がパンフレットなどに登場して「秋田県がつくった第三セクター」を強調してたため、「信頼できる」と人気を呼び、全物件が完売しました。
ところが、分譲された翌年あたりから、全ての家から地盤が沈下しているとの苦情が出されました。被害を受けた住民24名が再三にわたり補償を要求しましたが、売主である「秋住」は「住宅に欠陥はない」と応じませんでした。
私はこの事件を報道したテレビ番組を見た覚えがあるのですが、そこの土地は50㎝程度掘ると地下水が浸み出す軟弱地盤でした。もともとは水田だった模様で、しかも地形は谷戸です。縄文時代は、おそらく海だったところでしょう。
建築するそばから建物が沈下し、隙間が生じた基礎にはベニヤ板がはさんであるというような、いい加減さでした。さらには、秋田杉はほとんど使われていなかったそうです。
さて、しばらくすると放漫経営の末に「秋住」は倒産しました。住民側は、秋田県・秋田銀行・北都銀行と「秋住」の経営陣に対して、窓外賠償や心理的苦痛に対する慰謝料など総額7億円余りの訴訟を起こしました。
この事件を担当した弁護士によると、立証のための書類を積み上げると背丈を超えてしまうほどの困難な案件だったそうです。結局、提訴から3年半後、総額2億円あまりで和解に至りました。
この事件は、「秋住」に責任があるのはもちろんですが、買主が事前にもともとの地形を調査していれば、再考する余地があったかもしれません。その意味で、大変残念な事件でした。